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2002年 2月24日 「自由を与える神」

2002年2月24日 「自由を与える神」

  (ガラテヤの信徒への手紙 5:1~6)

 私は先日、日本ダルク、東京ダルクを訪問する機会が与えられました。ダルクとは、薬物依存症から回復したいと願う人たちのための支援センターで、一九八五年に、薬物依存の回復者・近藤恒夫さんによって設立されました。私は二日間そこに通い、ダルクという組織に圧倒され、同時に本当に感動した、そういう経験をすることが出来ました。

 その間、ずっと心から離れなかったのは、ガラテヤの信徒への手紙5・1の言葉でした。

 「この自由を得させるために、キリストはわたしたちを自由の身にしてくださったのです。だから、しっかりしなさい。奴隷の軛に二度とつながれてはなりません。」

 自由とは、私たち人間にとりまして、究極の価値であります。私たちは自由を追い求めて生きてきたと言って良いのではないかと思う。人が薬物に頼るのも、この自由を求めてのことであります。

 Kさん 二〇歳の時、マリファナから入り、一七年間の内にヘロイン、さらに覚醒剤に至りました。彼は言います。「自分は子どもの頃から人とコミュニケーションをとるのが苦手だった。強いコンプレックスと高いプライドがせめぎあうように心で葛藤していた。その孤独と鬱的状況から、薬物はおもしろいように解放してくれ深い安堵感を与えた。弱くて駄目な自分はうたかたのように消え去り、宇宙の支配者になったような幸福感があった。」

 しかし、その自由とは偽りの自由であって、それはむしろ限りなき不自由の無限地獄の始まり以外の何ものでもなかったのです。

 「自由」とは、言うまでもなく、薬物をやる自由ではない。薬物をやめることの出来る自由のことであります。しかし、薬物は人間を奴隷の軛で縛り上げ、決してその手を離そうとしない。そしてクスリをやる前よりもっと激しくコミュニケーションも愛の関係も崩壊させてしまうのです。

 その「やめられない、とまらない」不自由。しかし、これは薬物依存にならなくても、私たちも思い当たるのではないでしょうか。こんなことはしたくないと思うことを、またしてしまった。家族の間でもやりたくもない喧嘩をまた始める。これではいけないと思っても、それでは今度は、謝ろうと思っているのに、いざ顔を合わせると、また不自由となってしまって、そっぽを向いてしまう。そうやって、結局、交わりを作れず独りになってしまう。心を開きたいと思っているのに、何かに囚われてしまって、心を閉ざしてしまう。自分の愛も表せないし、相手の愛もそこで見失ってしまう。そういう罪の不自由さを経験しているのではないでしょうか。パウロもまた、こう呻くように問うています。

 「善をなそうという意志はありますが、それを実行できないからです。…わたしはなんと惨めな人間なのでしょう。死に定められたこの体から、だれがわたしを救ってくれるでしょうか」(ローマの信徒への手紙7・18~24)。

 ではダルクは「やめられない、とまらない」薬物依存から、どのように人を回復に導くのでしょうか。

 ダルクは、アメリカで生まれたアルコール依存症者の自助グループのノウハウを受け継ぎ、薬物用に応用した組織です。一九三五年、アルコール依存症のボブとビルが二人で、断酒についてのミーティングをしているとき、飲酒の欲求が消えるという不思議な体験、霊的体験をしました。その後も、ミーティングを開いている内に、次々と回復者が現れたのです。その経験の中で、彼らは12ステップという、回復のための実践プログラムを作成しました。これは極めて宗教的ですが、その一部を引用しましょう。

 われわれは薬物依存に対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた。 われわれは自分より偉大な力が、われわれを正気(健康的な生き方)に戻してくれると信じるようになった。われわれの意志と生命を、自分で理解している神、ハイヤーパワーの配慮にゆだねる決心をした。

 つまり依存症に対して人間は無力だと認め、それ故に、自分をハイヤーパワーに「委ねる」のです。私が先日ダルクへ通いながら、どうして、ガラテヤの信徒への手紙を思い起こさざるを得なかったか、これでよくお分かりだと思います。まさに、ダルクは、私たちの言い方では「福音主義」なのです。自分を「無力」と認める。そこから出発して、ただ神に頼るのです。そこに救いが起こるのです。

 この12ステップと深い関わりの中で行われるのが、一日に三度開かれる「ミーティング」です。これは、人々が輪になって、一つのテーマについて順番に思うことを話していく会です。そこで大切なのは、本当のことを語ること。もう強がる必要はない。クスリをやめられないなら、やめられないと正直に言っていいのです。

 Kさんは、ミーティングで人の話を聞いている最中、不意に胸の奥から、切ないものがこみ上げてきた。「ああ、もう何もいらない。失うものは何もないんだ。」万感を込めた吐息を、Kさんは吐きました。吐ききって、空っぽになった瞬間、待ち構えたように何かが入り込んできた、という経験をします。そして心からこう思えた。「命があればそれだけでいいじゃないか。何もなくたって、大丈夫なんだよ。」

 これは、ガラテヤ5・5に記される「霊」、聖霊体験そのものではないでしょうか。
 
 私は先日願い出て、そのミーティングに参加しました。そして私もまたそこで深い感動を味わいました。設立者、近藤さんらは最初、宿泊施設のダルクの規則をあれこれ定めました。起床時間とか、就寝時間とか、生活のあれこれの規則です。そうやって、規則正しい生活の中で、健康が回復されると思ったのです。しかしそれは誰も守らない。互いにその規則に縛られていらいらする。そして試行錯誤の末、彼はダルクの規則を「一日三回のミーティングに出席することだけ」としました。後は自由としました。

 私は何故感動したのか。私はそこに教会との類似性を見たからです。教会の規則も、考えてみれば、「週一度の礼拝に出席することだけ」であります。あとは何をしても、何もしなくても教会は自由です。何故なら、教会は律法・掟によって立つのではなくて、福音によって立つのですから。しかし礼拝だけは、ハイヤーパワーと出会うために、欠かすことは出来ません。ですから出席が強く勧められる。そこがとても似ている。

 「ミーティング」は、厳かな私たちの礼拝とは様子は異なります。煙草が間断なく吸われ、語るのは牧師ではなく、薬物依存の病人たちです。しかし、そこには嘘のない言葉がある。それは12ステップの冒頭にある通り、自分の「無力」を語るということに尽きる。それは人間の無力を語る説教に通じるのです。その無力のただ中に、ハイヤーパワーが宿るのです。このパワーとは、私たちにとりまして主イエスキリスト以外の何ものでもありません。

 このミーティングが終わった時、皆が立ちました。そして隣の人と手を繋いで祈りを献げました。これはとてもシンボリックです。クスリをやるのは、Kさんの経験でもコミュニケーションからの疎外、人と人との愛の関係を築けない、その寂しさの故でした。その不自由を克服しようとする薬物依存は、しかし、人間の交わりをもっと破壊してしまった。家庭も友情もめちゃくちゃになった。しかしこの「ミーティング」において、ハイヤーパワーと手を結ぶことができた時、人と人も互いに手を結び合う思いが回復したのです。パウロが言うように、愛の実践の萌芽がここに生まれようとしているのです。

 「キリスト・イエスに結ばれていれば、割礼の有無は問題ではなく、愛の実践を伴う信仰こそ大切です」(ガラテヤ5・6)。

 私もその輪の中に入り、手を握り合いました。その時皆が祈り始めたのは、ラインホールド・ニーバーのあの祈りでありました。「神様 私にお与えください 自分に変えられないものを 受け入れる 落ち着きを 変えられるものは 変えていく勇気を  そして 二つのものを見分ける賢さを」。

 神と和解する時、隣人との和解も起こる。神と出会う時に、隣人との出会いも起こる。ことさらに律法(規則)を定めなくても、先ずハイヤーパワーと結びつく時、「律法全体は、『隣人を自分のように愛しなさい』という一句によって全うされるからです」(5・14)とある通り、仲間との愛が生まれ、律法は充たされるのです。

 その限りなき豊かな出会いの中で、神と隣人とのコミュニケーションが回復し、人は霊的孤独から癒されるのです。その充足の中で、もはや薬物を必要としない身体になる。

 もう妙なものに依存する必要はない。「やめられない、とまらない」はずのものが、いつのまにか、必要なくなっている。

 私たちの今している礼拝こそ、この「ミーティング」そのもの。ここで私たちは、神と隣人と再会する。その魂の愛の充足の中で、初めて「依存」からも自由となることができる。全ては福音から始めるのです。律法からでない。掟は福音の後からついてくるのです。





・引用出典は、日本聖書協会『聖書 新共同訳』より 。

聖書 新共同訳: (c)共同訳聖書実行委員会  Executive Committee of The Common Bible Translation
           (c)日本聖書協会  Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988




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